秋のお彼岸の時期になると、田んぼのあぜ道に咲く赤い花とは?
そうです、彼岸花です。
田んぼのあぜ道に彼岸花が咲くのは、大飢饉に備えて人々が彼岸花を植えたからです。
でも、彼岸花には毒があるのでは?
さまざまな疑問を感じたので、今回は彼岸花についてご紹介したいと思います。
彼岸花がこんなに生活に密着した植物だったとは、正直知りませんでした。
彼岸花の魅力を、3分でお伝えしていきたいと思います。
ぜひご覧ください。
彼岸花とは
彼岸花はヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草です。
日本全国の田んぼのあぜ道や土手などに生育します。
秋のお彼岸の頃に咲き、「彼岸花」の名前の由来となっています。
彼岸花は「毒」があるけど「生活に役立つ」
彼岸花の毒とは?
彼岸花は、花や茎など全てに毒があり、特に鱗茎(球根)には強い作用があります。
毒の成分は、リコリンやガランタミンなどのアルカロイドです。
食べると30分以内に、悪心、嘔吐、下痢、頭痛などの食中毒症状が見られます。
葉はニラ、鱗茎(球根)はタマネギなどと誤食されることがあり、注意が必要です。
毒を持つ彼岸花が救荒作物
毒があるのにも関わらず、彼岸花は救荒作物でした。
救荒作物とは、稲などの作物が凶作になったときに、代用品として栽培する作物で、比較的早く育つアワ、ヒエ、ソバなどのことです。
彼岸花の鱗茎(球根)は、つぶして長時間水にさらして毒抜きすると、でんぷん質がとれます。
第二次世界大戦中や大飢饉などの非常事態では、食用とされていました。
人々は田んぼのあぜ道などに彼岸花を植えることで、飢えに備えていたのです。
毒があるので、絶対にマネはしないで!
人々の生活を支える彼岸花
毒がある彼岸花ですが、毒によって人々の生活を守ってきました。
用途 | 目的 |
田んぼの畦や川の斜面に彼岸花を植える | モグラやネズミが穴を掘らないようにする 彼岸花が根を強く張るため、土手が壊れない |
お墓やお寺に彼岸花を植える | 土葬だった時期に遺体を守るため |
鱗茎をすりつぶしてデンプンをとる →ふすまの下張りや和紙に使用 | 防虫のため |
鱗茎をすりつぶして、土にまぜて壁にする | ねずみが壁をかじらないため |
毒の作用を利用したことから外れますが、彼岸花の成分には、他の植物の生長や発芽を抑制する作用があります。
彼岸花がこんなに生活に役立っていたとは、意外でした。
彼岸花の鱗茎は薬になる
鱗茎には毒がありますが、薬にも使われ、生薬名を「石蒜(せきさん)」といいます。
咳を鎮めて痰の切れをよくする作用があります。
石蒜から得られたエキスは、白色濃厚セキサノールといい、市販の鎮咳薬に配合されています。
彼岸花は毒がありながらも、田んぼやお墓など人々が大切にするものを守り、ときに非常食にもなっていました。
また毒の成分があるも、薬としても活躍するなんて、彼岸花はおもしろいですね。
彼岸花は「死人花」であり「天界に咲く花」
別名が多い彼岸花
彼岸花は、方言も含め別名が多い花として有名です。
その数は、1000以上といわれています。
熊本国府高等学校PC同好会さんが、彼岸花の別名をまとめています。
見てみると、「死人花」「地獄花」「幽霊花」など怖い別名があります。
毒がありお墓の近くに植えられていたことから、想像が膨らんだ結果だと推測できます。
また「彼岸花を家に持ち帰ると、家が火事になる」とか「死人の血を吸ったから赤い花になった」など迷信も多くあります。
毒があるため人が触れないようにする理由で、怖い迷信が広まったのではないかと考えられます。
曼殊沙華は白い花
彼岸花の別名の中でも、よく耳にするのは曼殊沙華(まんじゅしゃげ)ではないでしょうか。
曼殊沙華は、古代インドで大変おめでたい花とされ、インドのサンスクリット語で「天界に咲く花」という意味です。
お釈迦様が法華経を説かれる前に起こった6つの吉兆を「六瑞」といいます。
その中の「雨華瑞(うけずい)」で曼殊沙華が登場します。
六瑞の場面 | 事象 |
説法瑞(せっぽうずい) | お釈迦様が法華経を説き始める |
入定瑞(にゅうじょうずい) | みんながお釈迦様の話を聞く準備ができておらず、お釈迦様が瞑想に入る |
雨華瑞(うけずい) | 曼殊沙華などの花が天から降ってくる |
地動瑞(ちどうずい) | 大地が震動する |
衆喜瑞(しゅうきずい) | すべての人々が歓喜する |
放光明瑞(ほうこうみょうずい) | お釈迦様の眉間の巻き毛の塊から光が放たれ、国土を照らす |
近松門左衛門と広済寺 妙法蓮華経解説 妙法蓮華経序品第一 (2)
雨華瑞(うけずい)では、4種類の花が天から降ってきます。
花の名前 | 詳細 |
曼陀羅華(まんだらけ) | 色が美しくよい香りがして、見る者の心を悦ばせるという天界の花 |
摩訶曼陀羅華(まかまんだらけ) | 摩訶は、大きいという意味。大きな曼陀羅華 |
曼殊沙華(まんじゅしゃげ) | ここでは赤い花の彼岸花ではない この花をみた者を悪業から離れさせる、柔らかく白い天界の花 |
摩訶曼殊沙華(まかまんじゅしゃげ) | 大きい曼殊沙華 |
曼陀羅華(まんだらけ)とは、朝鮮朝顔のことです。
曼殊沙華は、もともとは白い花でした。
曼殊沙華はサンスクリットで「赤い」という意味をもつため、仏教がインドから中国に伝わったとき、曼殊沙華は赤い色になったようです。
「見た人を悪業から離れさせる柔らかく白い花」なんて
一度でいいから見てみたいと思ってしまう、欲深い私です。
このように、彼岸花は「死人花」など暗く怖い別名がある一方で、「天界に咲く花」という高貴な別名もある。
別名においても相反する側面を持っており、非常に興味深いです。
彼岸花の「赤い花」と「緑の葉」は共存しない
彼岸花が燃えるような赤い花を咲かせるとき、地上に葉は存在しません。
花や茎がしおれて枯れてから、緑色の葉が成長してきます。
葉が出る時期が多少異なることがありますが、いずれも初夏には葉が枯れて、夏には地上に何もない状態。
1年後のお彼岸の頃になると、また花だけが咲きます。
このようなサイクルで生育する彼岸花は、花は葉を見ない、また葉も花を見ないことから、「ハミズハナミズ」という別名があります。
また花と葉がお互い会うこともなく、互いに思いあっていることから「相想華」ともいわれます。
花だけが成長し枯れて、花がなくなったタイミングで葉が伸びてくる。
お互いがそれぞれの役割を果たしているのですが、相反する生活をする花と葉。
彼岸花は、なんとも不思議で魅力的です。
彼岸花は「蜜は作る」けど「種はできない」
多くの植物が花に蜜をつけて虫を誘って、花粉を受粉させて種をつくります。
彼岸花は蜜を作りますが、種はできません。
それは、日本の彼岸花ほとんどが、染色体が3倍で種ができないからです。
つまり、通常は両親から1セットずつ染色体をもらうため、2本で1セットになっていますが、彼岸花の染色体は3本で1セットになっているということです。
染色体が2本で1セットになっていることを2倍体、3本で1セットを3倍体といいます。
彼岸花の原産は中国ですが、中国の彼岸花は2倍体で種ができます。
3倍体の彼岸花は、中国の彼岸花の染色体突然変異だと考えられています。
種ができない彼岸花は、球根が分かれて増えることで子孫を残すため、日本全国の彼岸花は同一遺伝子です。
もし日本の彼岸花が蜜を作らないようになるなら、遺伝子を変える必要があります。
しかし、変異が起こりにくい理由が2つあります。
- 3倍体の場合は、1つの遺伝子に突然変異が起きても、対立遺伝子が2つ残る。その結果、表現型として出にくい。
- 減数分裂がうまくいかないので、変異した遺伝子が分離してホモ接合にならないから。
一般社団法人 日本植物生理学会 ヒガンバナは種をつけないのに、なぜ花を咲かせ蜜を出すのか
ムムム。なんだか難しい。
少し難しい話になりますが、ここからは高校の生物が役に立ちます。
①は、比較的理解しやすいです。1つの遺伝子に変異が起こっても、残りの遺伝子にもともとの性質が残るので、変化が出にくいということです。
- 表現型とは、発現する形質のこと。
例えば、エンドウマメの種が「しわ」になる、「丸」になること。
②については、減数分裂が上手くできないため、同じ遺伝子で構成されるホモ接合にはならない、その結果として変化が出ないということです。
- 減数分裂とは
生殖細胞だけで起こる特別な分裂のこと。
生殖細胞が第1分裂、第2分裂を経て、DNA量や染色体数を半分に減らす。
- ホモ接合とは
遺伝子型が同じ遺伝子で構成されている状態のこと。例えば、AAやaa。
ベネッセ教育情報 定期テスト対策 高校理科 生物定期テスト対策 遺伝子型と表現型の違いを分かりやすく解説!
実用はない蜜を作るのは、受け継いだ遺伝子によるもの。
1週間ほどで枯れる花が、少しでも蝶たちの食料になっていれば、咲いた彼岸花も報われますね。
まとめ
- 彼岸花は毒があることで、人々が大切にしているものを守ってきた。
- 彼岸花の毒は、薬にもなる。
- 別名が1000以上あり、暗くて怖い別名がある反面、天界に咲く花といわれる。
- 彼岸花の花と葉は、同時には存在しない。
- 彼岸花は蜜を作るが、種はできない。
お彼岸で故人を想う傍らに彼岸花が咲く。
花期が短いですが、ぜひ彼岸花を楽しんでください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
<参考文献>
田中 修 花のふしぎ100 ソフトバンク クリエイティブ 2009